本の痕跡

友人が本を貸してくれる時に、貼ってあったいくつかの付箋を取ろうとしてくれたので、慌てて止めた。もしかしたら一周読む時だけ何かの覚えとして貼ったのかもしれないが、借りる身分なので、その人がいつかその本をもう一回読んだ時に、ついてた方がいいんじゃないの?!そんなの取っちゃっていいの?!と思って。
メルカリで本を中古で売った時に、自分が過去に書き込みをしてた箇所を何個か見つけたので消しゴムで消した。でもその本は学術の本で、書き込みは自分が思って書き留めたそのページの要点だったので、これは消さないでいた方が買った人が読む時に助かるんじゃない??なんて思った。

私だったら、そんな書き込み、消さないで欲しい。むしろバンバン書き残して欲しい。なんなら線引いてあるところとかもあったら、そこに注意を向けれそう。難しい本って全然集中できないし、読んでも文字だけがするする滑っていってしまうから、付箋やメモ書きや線なんかが残っていたら、それが引っかかりになって滑らずに頭に留めれるような気がする。そんな痕跡は、知り合いから借りた本だとその人がどんな風にその本を読んだのかがわかる感じがして、少し覗き見のような罪悪感を伴いながらも、でもその感じが想像されて微笑ましく心地よい。中古の本や図書館の本でもいい。どこの誰か知らない人だったとしてもその本を読んだ誰かがそこに注意を向けたってだけで、その本の中に何かほのかに光る一箇所ができたような感じがする。(そういえば図書館の本って最近は借りる時はピッだけど、昔は裏表紙の内側に借りた日付のハンコとか押されてた。それが恋愛のきっかけになる小説とか、あるよね)

いつか読んだ本に、筆者がたまたま手に入れた中古の雑誌の中に、一箇所切り抜かれているところがあって、そこの、切り取られてしまって今はもうない箇所に何があったのかが気になって、それを発見するべく色々と頑張る話が書かれていた。

もしも、本の中の一ページに何か、本と全く関係ないことが書かれていたら、例えば歌の歌詞や、お店の名前。それらの情報が宣伝とか広告にあるよりも、気になってしまう気がする。全てが開示されていなくて謎を含んでいるからだろうか、その情報が、平面では持ち得なかった魅力を持ち始めるというか。あるいはこの世界の中で、どこかの誰かが手をかけたという小さな小さなことが果てしない海の中で小さな光を灯らせて際立たせられるというか。

広い広い土地を、どこから掘ればいいかわからないけど、誰かが少しだけスコップで掘った後があって、そこから始めてみるか、と。宝が埋まってる確証もないし、いいかどうかわからないけど、なんだか、ほかの平面よりも少しだけ温もりが残っているようで、思い入れが無意識に始まってしまうような。